手作り

 須賀敦子さんのエッセイにハマり始めている。読んだのはまだ、「ヴェネツィアの宿」、「トリエステの坂道」の二冊。

 終戦の混乱期にヨーロッパに留学し、日本と行き来しながら、イタリアで結婚。その間、翻訳や放送局勤務などを経て、夫の死を機に帰国、51歳で作家デビューした方である。

 彼女の文章は豊かだ。それぞれが手作りキルトのパッチワークのように暖かい。私はせっかちなので、文章を味わうより、内容を求めて速読しがちなのだが、彼女は特別だ。

 ヴェネツィアの宿の天窓から見えた満月。出来のよくない息子の就職を、いとしみ喜ぶささやかな家族。街の暮らしに馴染めず山に永住する夫婦。日本のミッションスクール生時代出会ったコミカルなシスター達。貧しさの中で、小さなハーブ園を楽しむ姑。

 誇張することなく、淡々と人生の光と影が綴られる。

 本を閉じると、いつもの街や人があたたかく思える、そんな文章です。