哀しみのソレアード

1990年代に入ると、メリーさんは70を越えました。ホテルやアパートを転々としていた彼女も、ついにホームレスになってしまいます。

福富町、GMビルのエレベーター前。いすを置いて寝泊まりする。頭がおかしいと言われ、エイズが話題になると、行きつけの喫茶店や美容院も出入り禁止になってしまいます。

そんな時、シャンソン歌手、永登元次郎さんと出逢います。
彼のコンサート会場の前で、じっとポスターに見入っていたメリーさんに、元次郎さんが声をかけた事がきっかけです。以後、メリーさんは毎回見にきてくれるようになりました。

若い頃男娼もしていたという元次郎さんは、メリーさんを他人事に思えず、母親のようにも感じていました。
住民票をとろうとしたり送金したり。
それでも、元次郎さんはメリーさんに心を開くことはありませんでした。

目が見えなくなり、お化粧もどんどん濃くなっていった1995年の暮れ、クリーニング屋さんのはからいで、メリーさんは郷里に帰ってしまいます。消えた、死んだ、お化けなど様々な噂が飛び交う中、元次郎さんは手紙や贈り物を続けます。

ずいぶん経って、メリーさんから手紙が届きます。元次郎さんと出会ってからの事、感謝の思い、今老人ホームで仲間と日舞を習っている事などが、綺麗な字で綴られていました。

当時末期癌に冒され、闘病生活をしていた元次郎さんは、ベッドを抜け出し、メリーさんのもとに向かいます。かつてメリーと呼ばれた女性は、薄化粧の穏やかな表情で、彼の歌を聞いたのです。

2004年3月、永登元次郎さんは66歳でこの世を去りました。そして、かつてメリーと呼ばれた女性は、2005年1月、郷里で10年生きて、84歳の生涯を閉じました。